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バラキ 1972 イタリア/アメリカ
ヘラルド
COSA NOSTRA  THE VALACHI PAPERS
ストーリー  ジョー・バラキの回想独白。
監督 テレンス・ヤング
出演 チャールズ・ブロンソン リノ・ヴァンチュラ ジル・アイアランド
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★ ★★ ★★★ ★★★ ★★
コメント  公開当時は『レッド・サン』やマンダムのCMで人気急上昇したブロンソン。子供心なりにこの映画を観たかったのだが、ギャング映画はどうも苦手だった。
 マランゼノがマッセリア一家をつぶす、そんなマフィアの抗争をドキュメンタリータッチで綴った映画だったが、殺されるから独房に入れてくれ!という気持ちもよくわかる作り。しかし、淡々と暴力シーンが続くだけで面白みはまったくない・・・
(2006.7)

パラダイス・ナウ 2005 フランス/ドイツ/オランダ/パレスチナ
アップリンク
PARADISE NOW
ストーリー  イスラエル占領地であるヨルダン川西岸ナブルス。二人の若者サイードとハーレドが自爆テロの任務を与えられ苦悩する姿を描く。
監督 ハニ・アブ・アサド
出演 カイス・ネシフ アリ・スリマン ルブナ・アザバル
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★ ★★★★ ★★★ ★★★ ★★★★
コメント  エンディングがなんとも言えない余韻を残してくれた。
 サイードとハーレドという二人の若者。自動車修理工場でのやりとりを見ても、どこの国にでもいそうな今風の男たちだ。違っているのはそこが被占領地であること。平和な世の中で過ごしていると、彼らの心の奥底に潜んでいるものが見えてこないのかもしれない。
 まず驚かされたのが、普通に帰宅しようとしている人たちの近くで爆撃音がこだまするシーン。被害を被らないように皆一様に体を低くするのですが、その直後には何もなかったかのようにまた歩き出す・・・このような出来事は日常茶飯事なのだろう。
 そうしたパレスチナ問題が残るイスラエル占領地。サイードとハーレドがテルアビブでの自爆攻撃の任を与えられる。未来のある二人が仕事や家族や恋愛を顧みて悩み続けるのかと思っていたら、「英雄になれる」と喜んで命令を受けるのです。真っ先に思い浮かべるのが第二次大戦中における日本の特攻隊。その自爆という行為によってすぐに問題が解決するわけではないのに、積み重ねて礎となることが名誉であり、平和への糸口になると教え込まれているかのようだった。
 「死をおそれない者は天国に行ける」と信じている彼ら。先の見えない占領地においては、生きる希望よりも未来の祖国を祈る気持ちのほうが強くなるのかもしれない。また、圧倒的な軍事力を持つイスラエルに対抗できるのは自爆テロしか手段がなかったのかもしれない。しかし、英雄の娘であるスーハの言葉からもわかるように、解決の手段はどこかにあるはずなのです。
 映画の作りとしては、かなり真面目に取り組んであった。フレームの端でコーヒーだとかエキストラのちょっとしたアクセントも面白いし、一見して平和そうな場所から路地に入ると爆撃痕の残る建物が平然としているアンバランスさも見事に捉えていた。イスラエルへと侵入する場面だとかに緊迫感がなかったことが残念だったけど、二人の心情変化が対照的だったことが脚本の力を感じさせてくれました。
 パレスチナ問題を真摯に取り組んだ映画、しかもパレスチナ内部から、自爆テロ志願者からの描写なんて珍しい。欧米では敬遠されるような内容であるかもしれないけど、ファシズムによる戦火の中で戦っていたレジスタンスと意志は共通であろうし、歴史が変われば彼らの存在は尊い犠牲者として受け入れられることになるのでしょう。手段は間違っていても、平和な世界を夢見ていただけ。遠く離れた見知らぬ国であっても一傍観者であってはいけないのだと痛感させられました・・・

2005年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
2005年ベルリン国際映画祭ヨーロピアンフィルム賞
2005年ゴールデングローブ賞外国映画賞
2005年インディペンデント・スピリット賞外国映画賞
その他
(2007.8)

パリ、ジュテーム 2006 フランス/独/リヒテンシュタイン/スイス
東宝東和
PARIS, JE T'AIME
ストーリー  パリの街そのもを18人の監督が描いたオムニバス。
監督 18人
出演 スティーヴ・ブシェミ ウィレム・デフォー イライジャ・ウッド
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★★ ★★★ ★★★★ ★★★★★ ★★★★
コメント  監督名、俳優名を列挙するだけでも一苦労する短編集。
1 モンマルトル Montmartre :ブリュノ・ポダリデス  ★★★
 監督自身が主演。血糖値が下がって倒れた女性を渋滞のため移動できない自分の車に運びいれるという展開。もしや続きがあるのでは?と期待させるところが素敵。
2 セーヌ河岸 Quais de Seine :グリンダ・チャーダ ★★★
 これも出会いだけを描いた短編。悪友2人は全く無視していたアラブ系女性が気になってしょうがない主人公。短いながらも、人種偏見の全く無い主人公の恋心は純粋で爽やか。
3 マレ地区 Le Marais :ガス・ヴァン・サント ★★★
 女性に大人気のギャスパー・ウリエル君がゲイ??「会ったことあるよ」などと、誘うための常套句なのか、ほんとに会ったことがあったのかはわからないけど、ショートコントよりも最後の疾走シーンが鮮やかでした。
4 チュイルリー Tuileries ジョエル&イーサン・コーエン ★★★★
 地下鉄で観光ガイドを読む観光客役のスティーヴ・ブシェミ。映像や独特の編集によるブラックな展開はコーエン兄弟そのものでした。「マレ地区」に続き、言葉が通じないことの面白さもさることながら、吹き矢を放つ子どものポイントが見事。
5 16区から遠く離れて Loin du 16eme ウォルター・サレス ★★★★★
 自分の子どもを託児所に預け、裕福な家庭のベビーシッターをするカタリーナ・サンディノ・モレノ。設定自体が貧富の差を風刺した驚愕の内容であるが、わが子と同じように子守唄であやす主人公の優しさを強調してあるところがいい。
6 ショワジー門 Porte de Choisy クリストファー・ドイル ★★★
 いきなりチャイニーズ。原色中心の鮮やかな髪型と、中国美女によるカンフーアクション。アメリの写真とギャグが印象的・・・
7 バスティーユ Bastille イサベル・コイシェ ★★★
 妻を愛してないことに気づいた男が別れ話を切り出そうとしたとき、妻が不治の病であることを告げられる。あとから考えると、味わい深い作品だったけど、「ショワジー門」の次だったのがよくなかった・・・どことなくコントであるような気がして・・・
8 ヴィクトワール広場 Place des Victoires :諏訪敦彦 ★★★★
 「カウボーイは今でもいるんだよね」と言っていた亡き我が子を想うジュリエット・ビノシュ。夜になると幻想的な雰囲気に包まれる広場にウィレム・デフォーが!!もう俳優だけで満足。
9 エッフェル塔 Tour Eiffel :シルヴァン・ショメ ★★★★
 『ヴェルビル・ランデブー』の監督。パントマイマーの男女が奏でるコミカルな短編だけど、18編のうち、ずっと心に残りそうな作品でした。大きなカバンを背負っている子どもが可愛いんです。
10 モンソー公園 Parc Monceau :アルフォンソ・キュアロン ★★★
 ニック・ノルティの登場に驚き!5分間ワンカットで撮ったスリリングな会話展開が面白かった。
11 デ・ザンファン・ルージュ地区 Quartier des Enfants Rouges オリヴィエ・アサヤス ★★★
 ストーリーは面白くないけど、マギー・ギレンホールの変化する表情がいい。
12 お祭り広場 Place des Fetes :オリヴァー・シュミッツ ★★★★★
 「蚊に刺されたよ・・・」とつぶやいて蹲る黒人男性。応急処置を施す若い黒人女性。「一緒にコーヒーを飲もう」・・・わずかの時間に男性の回想録。5分という短編の枠に彼の人生が凝縮されているかのようであり、「この歌に聞き覚えない?」と静かに伝える姿に感動。最も好きな作品となりました。
13 ピガール Pigalle :リチャード・ラグナヴェネーズ ★★★
 ファニー・アルダンとボブ・ホスキンス。長年舞台でコンビを組んできたという設定だけど、どこまでが本当の演技なのかわかないところがいい。
14 マドレーヌ界隈 Quartier de la Madeleine :ヴィンチェンゾ・ナタリ ★★★★
 彩度を落とし、モノトーンのような映像にしたヴァンパイアものの短編。血の赤色だけ目立つようにした映像は『シン・シティ』を思い出す。その『シン・シティ』にも出演したイライジャ・ウッドが女吸血鬼に・・・といった、普通のヴァンパイアものの男女逆パターン?
15 ペール・ラシェーズ墓地 Pere-Lachaise :ウェス・クレイヴン ★★★★
 結婚を間近に控えた二人(エミリー・モーティマーとルーファス・シーウェル)が墓地にやってくる。オスカー・ワイルドファンの彼女に「笑わせることが必要」などと言われた彼が、なんとオスカー・ワイルドの幽霊に遭遇・・・彼らの幸せを願っての行為だったのか、それともゲイだったからなのか・・・よくわからないけど。
16 フォブール・サ・ドニ Faubourg Saint-Denis :トム・ティクヴァ ★★★★
 女優志願のナタリー・ポートマンの練習風景を聞いた盲目の男性。それほど彼女の演技が迫真にせまっていたことの証明でもあったわけで、理解者となった彼は親しくなってやがて恋人となる。オチがわかってしまうので、ストーリーはそれほどでもないけど、2人の愛の経過をスピーディに映像化したところが素敵です。もちろんナタリー・ポートマンも素敵・・・
17 カルチェラタン Quartier Latin フレデリック・オービュルタン ★★★★
 もう一人の監督兼、レストランのオーナー役にジェラール・ドパルデュー。別居中の夫婦、ジーナ・ローランズとベン・ギャザラ。「離婚が成立したら・・・」等々のちょっと聞いただけでは険悪になりそうな会話なのに、「駆け落ちしようか?」とのひと言が2人の関係(再燃?)を予感させるキーポイント!それにしてもドパルデューの最後の言葉が憎いね・・・
18 14区 14th arrondissement :アレクサンダー・ペイン ★★★
 フランス語を習得して、一人旅のマーゴ・マーティンデイル。口を大きく開ける表情には『トータル・リコール』のあのおばちゃんか?と勘違いしてしまう。ああ、愛を求めて一人旅をしてみたいものだ・・・

(2007.7)

巴里のアメリカ人 1951 アメリカ
MGM
AN AMERICAN IN PARIS
ストーリー  退役し絵描きになるべくパリに移住したジェリーが歌手のアンリと知り合う。リズという女性と知り合ったジェリーは彼女を好きになるが、リズには婚約者アンリがいた・・・
監督 ヴィンセント・ミネリ
出演 ジーン・ケリー レスリー・キャロン オスカー・レバント
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★★★ ★★★ ★★★ ★★★★ ★★★★
コメント  アンリの友達がピアニストである留学生アダム(レバント)。ジャズは嫌いだと言うアンリだけど、歌っている曲はJAZZっぽい。
 モンマルトルの角で絵を点Jしていたジェリーは絵の才能に目をつけた金持ち婦人のマイロに誘われる。そこでリズに一目ぼれ、果敢にアタック、次の日も勤め先に電話してようやくディナーの約束をする。
 子供たちと英語を教えながら踊るタップダンス、アダムのピアノに合わせてもタップダンス。とにかくジーン・ケリーのタップシーンがすべていい。アンリに恋の悩みを打ち明けたときにもタップを踊る・・・何度も逢瀬を繰り返し、別れ際にキスをする2人。恋愛!という点ではこちらが勝っているのに。
 アンリはアンリでプロモーターからアメリカ行きを誘われて、結婚を決めたと確信していた。そして2人のターゲットが同一人物であることを知っていたアダム。彼のとぼけかたが何とも面白いのです。
 ラスト直前のジーン・ケリー中心の妄想ミュージカルシーンは無駄に長いような気もしますが、ラストショットで感動するためには丁度良かったのかな〜

1951年アカデミー賞作品賞、脚本賞、撮影賞、ミュージカル映画音楽賞、美術監督装置賞、衣装デザイン賞受賞、同監督賞ノミネート
1951年ゴールデングローブ賞作品賞
その他
(2006.11)

バリー・リンドン 1975 イギリス
WB
BARRY LYNDON
ストーリー  18世紀後半のアイルランド。貴族の息子レドモンド・バリーが野望に燃え立身出世し、晩年の悲惨な人生を描く。
監督 スタンリー・キューブリック 原作:ウィリアム・メイクピース・サッカレー
出演 ライアン・オニール マリア・ベレンソン パトリック・マギー
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★ ★★★★ ★★★ ★★★ ★★★★
コメント  父親は貴族としての地位を得るはずだったのに些細なことから決闘して死亡。従妹のノーラに恋心を抱いたために将校と決闘となり相手を殺してしまう。そして警察から追われ、追いはぎにも遭うが、そのまま軍隊に入り罪を問われなくなった。しかし、殺したと思っていた将校は死んではいなく、そのままノーラと結婚してしまったと聞かされる・・・
 脱走兵となりプロシア軍に入ったバリー。功績が認められ、警察に入ることになるがスパイ疑惑のあるシュバリエ邸に雇われるが正直に身分を明かしてしまう。イカサマギャンブルを続けやがてプロシアを去る二人。英国に戻り、ある夫人をものにしたバリーはその夫が死んだことによりリンドン伯爵夫人と結婚して爵位を得る。
 夫人の連れ子ブリンドンがバリーに敵意を抱き成長する。最終的には何の因果か彼と決闘になってしまうのだが、哀れな末路はギャンブルで財を為したところで運命が定まってしまったのかもしれない。貴族の爵位と財産に目がくらんだため、虚しい生活も彼本来の良さを発揮できなかったのだろう。とにもかくにも、貴族というバカらしい世界のために生きるなんてのは生来の貴族しか無理ってことか・・・
 

1975年アカデミー賞撮影賞、音楽賞、美術監督・装置賞、衣装デザイン賞
同作品賞、監督賞、脚色賞ノミネート
その他いっぱい
(2006.11)

遥かなる甲子園 1990 日本
東宝
ストーリー  聴覚障害児の学校、沖縄の北城ろう学校で野球部を作ろうと敏夫(林泰文)たちが先生にかけあう。
監督 大澤豊
出演 三浦友和 田中美佐子 小川真由美
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★ ★★★★ ★★★ ★★★★ ★★★★
コメント  硬式の野球は聾唖者にとって危険が伴うため諦めさせようという三浦友和。せっかく9人集めた敏夫たちは諦めきれずに普通高校の野球部を見学に。そして、学校側では許可されたものの、高野連からは加盟が却下された。校長の植木等が優しい先生役で努力するのだが・・・
 暴走族に入っていた鉄也も試合できないからと、また不良仲間と一緒に遊んでしまい、警察に補導される。しかし、無事に高野連に加盟。その後コールド負けのオンパレードだった北城ナイン。
 林泰文の演技ももちろん良かったけど、迫真の演技で光っていたのは萩原聖人。父親(ケーシー高峰)が「もうすぐ社会人になるというのに野球をやってて何のためになる!?」と言われたことが原因だ。それでも最後の夏の大会。彼らは健常人の高校と合同練習をこなし、悔いの無いよう練習に励む。敏夫には試練が待っていた。キャプテンであるけど控えに回されることになったのだ。
 試合はコールドゲームなんかじゃない。精一杯力を振り絞って相手高校を最後まで追い詰める。敏夫にも代打のチャンスが回ってくる。聞こえる、中3のとき甲子園で聞こえた大歓声。得意のサイン攻撃はスリーバントだったがキャプテンとしての責務を果たす敏夫。思い残すことはなかった。ナインが一丸となって闘った思い出は彼らの心に一生刻み付ける青春だったはずだ。
(2006.7)

遥かなる山の呼び声 1980 日本
松竹
ストーリー  北海道の広大な原野。大雨の晩、母と息子が住む牧畜家庭に男がやってきた。
監督 山田洋次
出演 高倉健 倍賞千恵子 吉岡秀隆
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★ ★★★★★ ★★★★ ★★★★★ ★★★★★
コメント  嵐の晩、偶然にも産気づいた牛のお産を手伝った男。それだけで命の尊さを感じとったのだろう。帰り道、息子に「父さん、いないんか?」と尋ねるあたり、孤独を紛らわせようとしていたのかもしれない。冒頭10分だけでそのままストーリーが完成してしまうくらいの重みのある演技。やっぱり健さんは渋い。
 再度男がやってきたときも一線を引いて、レイプとか強盗の心配もあるはずなのに、息子武士をメッセンジャーとして意思の疎通を図るのだ。
 倍賞千恵子に言い寄ってくるハナ肇の存在も面白い。レイプしそこなって報復しても健さんにやられてしまう。警部というイメージが残っているので捕まえにきたんかと思っちまった。それに新婚旅行中に寄った従兄弟の武田鉄矢や、人工授精師の渥美清など『幸せの黄色いハンカチ』を思い出す人物ばかり。場所だって北海道だ。このあたりは当時、二番煎じだと批判の対象となっていたように思う。
 「人を殺したんです」という言葉がこんなにも涙を誘うとは思わなかった。もちろんラストの列車の中での倍賞・ハナの「待っている」という演出が上手くて涙が止まらなくなるのですが、後半は画面が霞んでしまうほど・・・目が痛い。

1980年日本アカデミー賞主演女優賞
1980年度キネ旬日本映画第5位
(2006.8)

バルトの楽園(がくえん) 2006 日本
東映
ストーリー  1914年、中国青島総攻撃でドイツ兵4700人が捕虜として日本に送還される。
監督 出目昌伸
出演 松平健 ブルーノ・ガンツ 高島礼子
音楽 ストーリー 映像・演出 俳優 総合評
★★★★ ★★ ★★ ★★ ★★
コメント  暴れなかったし、馬にも乗らなかった松江所長(松平健)。サンバを踊るかと思っていたら、阿波踊りを踊っていた・・・
 笑ってしまいそうになったけど、こらえました。実話がベースなだけに徳島の坂東捕虜収容所の物語に坂東英二が出演・・・さすがに彼は久留米の所長だったようですが、下手するとコメディ映画になってしまうところです(実際に彼の故郷だそうです)。また、脱走ドイツ兵カルルが匿われた民家では市原悦子が「日本昔ばなし」のように傷の手当てをし、パロディっぽい会話にほんわか気分にさせられましたが、青のコンタクトをつけた大後寿々花と自転車の少年なんて『SAYURI』のパロディだとしか思えず、これで松平健が白馬に乗って海岸を走っていたら卒倒してしまうところでした。
 第一次大戦中の敵国ドイツ。その捕虜に対しても人間らしく扱い、その恩返しとして日本では初めてのベートーベン第九交響曲を演奏してくれるというストーリー。テレビのスペシャルドラマでも観たことがあるのですが、この映画ではドイツの偉大な音楽に触れる喜びよりも会津出身の所長の寛大な待遇を讃えるような内容になっていました。それはそれで映画として成り立つのですが、感動できるはずの第九の演奏に関しては、最後にちょこっと付け足したというイメージしか残りません。もっと楽団員をクローズアップしなければ、この映画のタイトルそのものも「がくえん」と読ませるより「らくえん」のほうがいいのではないかとも感じてしまうのです。
 松江豊寿という人物は会津人として政府や軍部に虐げられたという過去もあり、その辛い経験とドイツ兵捕虜に対する優しさは「武士の情け」というキーワードで結びつく。積極的なドイツ文化吸収と人道的扱いという功績を残す彼は尊敬に値する人物なのに、感動できないのは何故なんだろう。やはりこの映画の作り方。ドイツ音楽の素晴らしさや印刷技術、パンなどの食文化を取り入れた事実よりも、愛国心や武士道ばかりが強調されていたことや、ドイツ音楽に傾倒していく日本人がほとんどいなかったことが原因なのかも・・・
 最後に、頼むから、第九を聴きながら阿波踊りやヘッドバンキングするのはやめてください・・・実際に日本人の反応はそんなものだったのかもしれないけど、笑ってしまうじゃないですか・・・
(2006.6)



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